ハープではちょうど真中(1/2)を親指の付け根を軽くおさえて弾くオクターブのハーモニックスが、また上から三分の一で弾く1オクターブと5度のハーモニックスが自然倍音です。つまりCの弦でいうと2倍音でC、3倍音でGが出ます。 実際にハープでは出せませんが、さらに4倍音で2オクターブ 上のC、5倍音でE(ここまでで主和音ができました)、6倍音でG、以下B♭、C、D、E、F♯、G、A♭、B♭、H、Cと理論上は続きます。ここでのF♯やB♭は明白にG♭やA♯とは違う音です。 チューニングとテンペラメントは違います。チューニングとは2:3で5度とかの整数比や仮分数で説明できるもので、純正律とピラゴラス音律に調律するときにのみ使えます。これに対してテンペラメントとは無理数を使用して調律することを指します。ですから正確には「平均律にチューニングする」という言い方は誤りになります。 全音音階とは1オクターブがC,D,E,F♯,G♯,A♯,Cの6音ででき、これはすべて半音を含まない長2度の音列になっています。基音は音階の中のどこに半音があるかで確認できますが、半音がなければ基音がわからなくなり、調性が喪失してきます。現代音楽=調性の崩壊と考えればドビュッシーから現代音楽が始まったと言われる所以です。ラヴェルもバルトークも全音音階を愛用しましたが、純粋にこの音階のみで作られた曲はありません。 正確には「あり得ない調」はなく、平均律ではできないのです。鍵盤から1オクターブ12音の長調と短調で調は24作れ、バッハの「平均律クラフィール曲集」やショパンの「前奏曲集」はこれを前提に24曲書いています。また♯が0〜7つまで、♭ が0〜7つまでで長調と短調を作れば学校で習う通り7×4+2で30の調性ができます。しかしピタゴラス5度の循環からいくと、実際には上行でC−G−D・・・A♯−E♯−H♯−F♯♯−C♯♯−G♯♯−D♯♯−A♯♯−E♯♯−H♯♯(重嬰ロ調)まで20通り、下行ではC−F・・・G♭−C♭−F♭−H♭♭−E♭♭−A♭♭−D♭♭−G♭♭−C♭♭−F♭♭(重変ヘ調)の16通り、長調短調で35個づつの合計70の調性が可能となります。調性の原理がピタゴラス5度にもとづいていながら、現実にはそれを否定した平均律でそのまま活用している矛盾からきています。

はじめに

 モーツァルトは音程が悪いという理由でハープを嫌っていました。今では楽器の性能も、弦の安定感も当時よりずっと改良されています。しかし今でもなお、ハープの音程は悪くてアンサンブルではしばしば問題があるという声が聞こえます。演奏会の直前には神経質な程ハーピストはチューニングをしていますが、それでもなかなかしっくりと溶け合う響きが生まれません。しかしこれは楽器のせいでも演奏家のせいでもなく、ハープを平均律にする調律方法に問題があると感じていました。現在ではハープは電子チューナーを使って調律や調弦をするのはあたりまえになっていて、このチューナーは平均律になっています。
 平均律とは1オクターブの12音を理論的に1200に分割しています。この単位をセントといい、どのチューナーにもこの目盛りが示されています。半音は100セントとなり、1セントの比率は1:1/1200(約1:1.000577789507)となります。

 ピアノの1オクターブは12音で出来ていまして鍵盤楽器はみな1オクターブに12個の鍵盤を持っています。平均律とは1オクターブの12音を何調で演奏しても和音の響きがおかしくならないように理論的に均等にした調律方法です。しかし歌はもちろん、ピアノやギター以外のほとんどの楽器では決して平均率では演奏しません。グランドハープは1本の弦で♭、ナチュラル、♯の3つの音を作ることができ、ピアノの1オクターブ12音の鍵盤に対して21の音を出すことができます。バイオリンなどフレットのない楽器を別にすれば1オクターブに21もの音が出せる唯一の楽器であるハープを平均律にしてしまうのは、あまりにもったいないのではないか、もっと耳に心地よい、美しい和音の響きが出せるのではないか、というのがここでのもくろみです。そうすれば独奏でもアンサンブルでも、ずっと音楽的に美しい響きが生るはずです。

 またアイリッシュハープではもともと♭が3つまで、♯が4つまでの調しか演奏できないのだから、すべての調を演奏できることを前提とした平均律にする必要はないのではないか、それならアイリッシュハープももっと美しく響く調律方法を探ってみましょう。すべてに細かい計算は省き、耳で聞き取らずにチューナーで調律できるようにセントの単位を使っていますが0.1セント単位にしてあります。実際には専門家用のオシロスコープを使わないとここまで正確なセント値を計ることができません。普通のチューナーでは5セント単位の目盛りしかありませんので、ある程度勘に頼ってください。ご要望があればこの通りに正確に調律いたします。いったん調律された楽器は後で述べているように特定のチューナーを使えば、日常の調弦が簡単にできます。

注:ハープでは普通解放弦で音程を合わせます。ペダルを踏んだ時の半音は固定されていて、その都度音程を確かめることはしません。そこでここでは解放弦の音程を合わせることを「調弦」と呼び、ペダルやフックで作られる半音を合わせることを「調律」と呼んで区別しています。調弦は演奏者が普段にすることで、調律は技術者の仕事となります。また、チューナーで調弦する方法としてセントを使用し、チューナーの目盛りを+−で表していますが、コルグのチューナーOT-12ではさまざまな音律がプリセットしてあります。これを利用すればハープをハ長調にセットしてすべての音が0を指すように調弦すれば自然とここで使われる音律で調弦できます。



音律の基礎知識と調律の歴史

 音とは空気の振動で、振動数が増えるに従って音程が高くなります。和音の中で最も聴き取りやすいのがオクターブです。何故ならその振動の比率が1:2だから。次に聴き取りやすいのが完全5度です。その比率が2:3だから。例えばラの音が1秒間に440回振動するのに対して、上のミの音は660回の振動となり、この二つの和音はきれいに溶け合って聞こえます。基音に対しての各音の振動の比率を表にしてみました。これを純正律といって自然で、また最も美しい和音の響きです。17世紀フランスのメルセンヌという人が理論化しましたが、人類は誕生の時から 自然倍音の体験で純正の響きを感じていました。ウィーン少年合唱団が「天使の歌声」といわれるのは、常にこの純正律の和音で歌うからです。この振動数をセントの単位で計算してみました。
純正律 基音 長2度 短3度 長3度 完全
4度
完全
5度
短6度 長6度 短7度 長7度 オクターブ
振動の
比率
1:1 8:9 5:6 4:5 3:4 2:3 5:8 3:5 5:9 8:15 1:2
セント 0 204 316 386 498 702 814 884 1018 1088 1200

もちろん平均律ではすべての音が100の倍数となりますから、Cを0セントに合わせたらDは+4セント、Eは−14セント、Fは−2セント、Gは+2セント、Aは−16セント、Hは−12セントに合わせて調弦すれば純正律の音階と和音が確かめられます。ただしこの場合はハ長調でしか美しく響かず、他の調ではその都度調弦を直さなければならなりません。しかしとにかくチューナーが0を指しているから音が合っているのだという考えは捨ててください。これが自然で、基本となる最も美しいハーモニーなのです。

 完全5度が聴き取りやすいのを利用して、5度の循環だけで1オクターブの12音を調律することができます。Cから順に5度づつとっていきます。これはすべて完全5度音程(702セント)です。この方法は紀元前6世紀に有名なピタゴラスが考案したもので、これで1オクターブが12音と決定されました。
→G→D→A→E→H→G♭(F♯)→D♭(C♯)→A♭(G♯)→E♭(D♯)→B♭(A♯)→F→
しかしこの方法だと最後にたどり着いたCが元のCと同一の音にならず、上の表の702セントの2セントの誤差が12倍されて24セントも違ってくるという問題が残ります。この24セントの誤差をピラゴラス・コンマといいます。この調律法をピタゴラス音律といい、セントの単位で計算すると次のようになります。

ピタゴラス 基音 長2度 長3度 完全4度 完全5度 長6度 長7度 オクターブ
セント 0 204 408 498 702 906 1100 1200

 これもこのまま調律をしますと、転調したときにまったく違う響き、それもきたない響きになることがありますが、旋律は美しく流れます。転調できないという理由でピアノなどの固定調律楽器にこれら純正律やピタゴラス音律を採用することはありません。ここで長3度に注目してください。純正律では386セントなのにピタゴラス音律では408セントと、平均律の400セントよりもさらに差が大きくなっています。この差22セントをシントニック・コンマといいます。三和音を構成する長3度と5度のうち、5度は純正ですが長3度がこれだけ違うと和音がきたなくなります。しかし歌とか管楽器やバイオリンなどの和音を出さない単旋律楽器ではこの音律で演奏するのが最も美しく音楽が流れます。和声のない邦楽でも音階は自然とピタゴラス音律になっています。旋律はピタゴラス音階で、伴奏のハーモニーは純正律でとる、というのが理想です。ア・カペラのコーラスがこの理想を最も容易に実現することができます。音律の研究はこのピタゴラス音律と純正律の二つをいかに有機的に結び付けるか、ということに尽きると思います。そのためピタゴラス・コンマやシントニック・コンマをどう処理するかで、さまざまな調律法が研究されました。

 14世紀になってイタリアのアロンという人がミーントーンという調律理論を研究しました。これは問題の長3度を純正に響かせる調律法で、そのために5度を純正より多少狭くしています。
 純正律では全音に大全音と小全音の区別があり、大全音(204セント)+小全音(182セント)で純正長3度となりますが、ミーントーンではその区別がなく、全音はすべてその中間の193セントにして純正長3度を作ります。このためミーントーンは中全音律と訳されます。しかし半音には全音階的半音と半音階的半音の2種類があり、CとC♯、DとD♯などは(アイリッシュハープのフックで作る半音)すべて76セントの半音階的半音となり、EとF、HとCやC♯とD、D♯とEなどの半音は117セントの全音階的半音となります。
 このミーントーンから出た古典調律が500年もの間使われ、この間に音楽がルネッサンスからバロック、古典派、ロマン派と、私たちが聞くクラシック音楽の基となっています。ミーントーンの長3度の美しい響きは、改良を重ねながらは実に19世紀まで続きました。このミーントーンから出た古典調律が500年もの間使われ、この間に音楽がルネッサンスからバロック、古典派、ロマン派と、私たちが聞くクラシック音楽の基となっているということです。つまりその時代の作曲家は皆この響きで調を決めて作曲したのです。ハ長調=明るさ 嬰ヘ長調=暗さ ハ短調=悲劇的 変イ長調=甘さ などの調性の性格はこれらの調律方法によって可能となります。何故なら同じ和音でも調によって比率が違うからです。平均律ではどの調で弾いても和音の比率、つまり響きは同じで音の高さが違うだけです。これはカラーとモノクロほどの差があります。しかしハを基準にミーントーンで調律すると、鍵盤楽器では長調のハ、ト、ニ、イ、ヘ、変ロの各調と短調のイ、ニ、トの各調にしか使えません。それ以外の調に対してはまた基準の音を決めて調律をやり直さなければならず、すべての調で演奏するには全部で6通りの調律が要求されます。チェンバロは通常このミーントーンで調律するのが基本で、演奏する曲の調によってその都度自分で調律をします。作曲家がその響きを求めて作曲しているからです。キルンベルガーとかヴェルクマイスターヴァロッティなどがこの欠点を直すために研究し、100以上のバリエーションが残されていす。

 16世紀にバッハが平均律ピアノ曲集を作曲してから古典派以降は平均律だろうって? いいえ、原題のウェル・テンパード・クラヴィーア曲集はミーントーンの欠点である転調によって使えなくなることを修正した古典調律の一種で、弟子であったキルンベルガーの理論だろうと推測されています。ウェル・ テンパードとは良く調律されたという意味で、平均律と訳したのは誤訳です。現在使われている平均律の理論と算出法は16世紀にはすでにありました。リュートのフレットの位置の計算でフランスのマラン・メルセンヌという人が、同じころ中国で朱載育が、日本でも元禄時代に中根彰がこの存在を証明しています(註:中国人と日本人の漢字表記がパソコンの都合で一部変わっています)。しかし平均律は数学的な均等でオクターブを12に割り振った単なる理論のことで、これが音律に使える根拠はもともとありません。平均律を使用した最初の作曲家は晩年のドビュッシー(1826〜1918)だと言われています。モーツァルトやベートーヴェンはもちろん、ピアノ曲を主に書いたショパンですら平均律を嫌悪していました。そのためショパンは演奏会で4台のピアノを用意して、曲の調によってピアノを取り替えた記録があります。

 ピアノに平均律が採用されたのは1850年ころから産業革命の影響もあってピアノが大量生産されるようになり、てっとり早く同じ音にする必要から生じたものです。その平均律の響きからドビュッシーの全音音階、さらにシェーンベルクの12音技法などの無調性音楽が出たのも必然といえるでしょう。日本に西洋音楽が導入された明治時代初期はまさにこの時期です。ですから平均律が唯一絶対と思われ、合唱、合奏が平均律のピアノに合わなければならないような誤った考えを持ってしまいました。しかし古典調律が500年栄えたのに対して平均律はまだ150年もたっていまん。ところが最近再び純正調や古典調律が見直され、特にアメリカでは純正調の“現代曲”が作られるようになってきて、CDもいくつか発売されています。実験的、刺激的な音楽から癒し系の環境音楽へと目が向けられています。



アイリッシュ・ハープの調律

 ミーントーンで触れたように、アロンのミーントーンで調律するとすべての調に使えません。しかし同一の調律で♯系は4つ、♭系は3つまでの調には完全に対応しています。完全に対応という意味は長調、短調とも主和音、属和音、下属和音が美しく響くという意味です。これってまさにアイリッシュ・ハープそのものではないですか! それなら何も計算せずにミーントーンをそのままあてはめてみましょう。これでまさにハープは天使の楽器となり、心に染み入る響きを奏でる楽器となります。最近注目を集めているミュージック・セラピーの分野でも、平均律よりはるかに心を癒す効果があると確信します。
注:ミーントーンでは異名同音がなく、♭と♯では音程が異なります。アイリッシュハープではその解放弦とフックの通りにEの弦は♭とナチュラルに、Fの弦はナチュラルと♯にと固定してありますので、例えばD♯をE♭で代用することはできません。

 ピタゴラス音律が支配していた中世においては、グレゴリオ聖歌に代表されるように8度と5度、4度の3つだけが協和音とみなされ、他の音程は経過的に使用されていただけです。しかし紀元前よりヨーロッパ広範にわたる地域で高い文明を誇っていたケルト文化では純正3度の音程が培われていました。ケルト文化はローマ帝国の台頭によってイギリスやアイルランドに追いやられていきましたが、ケルティック・ハープ奏者の間では千年以上もの間この音律が使われ、綿々と伝えられていたはずです。独奏はもちろん、歌や他の楽器との合奏や伴奏でも平均律よりもずっとしっくりと合い、心に響くことでしょう。しつこく言いますがギターやマンドリンなどのフレット楽器とクロマティック・ハーモニカ以外には、平均率でしか合わせようのない楽器はないのです。
ミーントーンにするには、チューナーのセント値を下の表に合わせます。

Irish Hp E♭ F G A♭ B♭ C D
開放弦 +20.5 +13.7 +6.8 +24 +17.1 +10.3 +3.4
フック上 -3.4 -10.3 -17.1 0 -6.8 -13.7 -20.5

注:数字の単位はセントであり、チューナーでこの目盛りなるように調弦します。+は高く、−は低くなります。
  Aが標準ピッチになるようにしてあります。
 フックの調律はフックの取り付け場所を上下に移動して行います。高くするときはフックの位置を下げ、低くするときはフックを上げます。お申し出があればこのように調律いたします。一旦調律された楽器はふだんと同じように調弦すれば、いつもこの音律で演奏できます。ただしアイリッシュ.ハープのメーカーによって、あるいはモデルによってはこの半音を変えられないものがあります。詳しくはお問い合わせください。

 日常の調弦は市販されているコルグのチューナー OT-12 を使えば簡単です。このチューナーは8種類もの音律がプリセットされており、この中の ME♭ というモードを使って針が0を指すように調弦すれば上のセント値になり、自然とAが指定されたピッチ(440Hzとか442HZなど)になります。ただし注意することはこのチューナーはE♭とB♭は正しくセットされていますが、A♭が何故かG♯にセットされています。ですからAはナチュラルで合わせてください。間違いをなくすためにフックをハ長調にして、すべてナチュラルで合わせたほうがいいかも知れません


グランド・ハープの調律

 純正律ではC♯とD♭の音の高さが違い、C♯はD♭よりもかなり音程は低くなります。バイオリンなどでは当然のように弾き分けていますし、歌でもやはり心ある歌手は区別します。私は絶対音感があるから、といって平均律のピアノと同じ音程で演奏できる人はある意味「音痴」とも言えます。より美しい響きを求めてここでは18世紀中ごろのヴァロッティによる調律法を基本にしてハープに当てはめてみました。ここでヴァロッティを採用した理由は、転調による調性の変化がたいへんなめらかで刺激が少なく、ハープの柔らかな音色に合っていると思うからです。ただしナチュラルはヴァロッティそのものですが、♭と♯はハープの1オクターブ21音を利用して多少変えて異名異音にしてあります。私なりに試考したものが下の表です。チューナーのセント値を下の表に合わせます。

Pedal Hp
-1.6 +1.3 +4.3 +0.5 +1.3 +1.8 +5.7
ナチュラル +6.0 +2.0 -2.0 +7.6 +4.0 0 -4.1
-0.2 +1.8 +5.1 -1.2 -0.7 +3.2 +6.0

注:数字の単位はセントであり、チューナーでこの目盛りなるように調弦します。+は高く、−は低くなります。
  Aが標準ピッチになるようにしてあります。

 ペダルを踏んだ時のディスクの調律は、ディスクの回転角度を深くする(音程が高くなる)か、浅くする(低くなる)方法と、ディスクの上のアジャスタブル・ナットを上に上げる(♭とナチュラルの半音の幅が拡がって半音が高くなる)か下に下げる(低くなる)ことを組み合わせて行います。

 これでは異名同音を使ったハープ独特のグリッサンドが弾けないのではないか、と危惧する方もいるでしょう。しかしグリッサンドとは単なる音の羅列ではなく、必ず和音で構成されています。瞬間的に通り過ぎる異名異音のわずかな差よりも、和音として美しいほうがずっと曲に彩りを添えてくれます。異名異音の差は2.5セント以内におさえてあり、これくらいの誤差は人間の耳では区別がつかないほどです。ハープはもともとピアノのように音を止めることができない楽器ですので、響きの余韻を大切にするべきです。オーケストラにおいても和音、特に長3度や短3度が美しく響けば、ハープの音がオーケストラ全体を包み込むようなすばらしい響きになるはずです。何故ならば通常の管弦楽の編成に平均律を採用している楽器は皆無ですし、8音ものハーモニーが同時に弾ける楽器も皆無なのですから。従ってハープやピアノ、チェレスタ、マンドリンなどの平均律の楽器はオーケストラの中では「特殊楽器」と呼ばれます。

 日常の調弦は市販されているコルグのチューナー OT-12 を使えば簡単です。このチューナーは8種類もの音律がプリセットされており、この中の VT というモードを使って針が0を指すように調弦すれば上のセント値になり、自然とAが指定されたピッチ(440Hzとか442HZなど)になります。ただしナチュラルだけがヴァロッティ音律そのもので♭と♯は多少違えてありますので、すべてナチュラルの音でチューニングしてください。

おわりに

参考文献  野村満男著「古楽器研究2 Mozartファミリーのクラヴィ−ア考」 東京コレギウム
        平島達司著「ゼロ・ビートの再発見」 東京音楽館(現在はショパンから出版されています)
        藤枝守著「響きの考古学(音律の世界史)」 音楽之友社
 またNPO法人「純正律音楽研究会」代表で作曲家、ヴァイオリン奏者の玉木宏樹氏と、「チェンバロの保守と調律」の名著を著した音楽学者の野村満男氏にはお忙しい中時間を工面してご教示いただきました。ここにお礼申し上げます。タイトルは古典調律のハープですが、平島達司氏が「ゼロ・ビートの再発見」で述べているように、これを古典音律ではなく自然音律と呼ぶことに賛同します。古典調律を研究している方々は過去の響きを研究、再現しているのではなく、未来の音楽に取り組んでいるのです。

 ここでは調律の結果だけを書きましたが、別ページに和音構成のデータを載せました。興味のある方は併せてご覧ください。そこではさまざまな音律の和音を確かめるために表にしてみました。すべての表で左側の縦列が調律される音になります。その各音を基音とした純正律の三和音の数値をヘルツで出し、調律された音との差をセント値で表しました。これで各調による和音の性質がある程度わかります。グランドハープの調律においてはなるべく、異名異音は2.5セント以内に、3度音程は15セント以内に、5度音程は5セント以内に納まるようにしました。そのために例えば嬰ホ長調(E♯-A-H♯)のように、グランド・ハープでは作ることができるけど実際には あり得ない調 は犠牲にしてあります。それでもある調においては調和しない(不快なうなり=ウルフが出る)和音があります。しかし調和しない和音は使いものにならない訳ではありません。音楽は人間の感情を表現し、“安らぎ”や“喜び”ばかりでなく“悲しみ”や“不安”、時には“悲痛な叫び”も含まれます。バッハの受難曲ではこれらの表現にわざとウルフを含む和音を使って効果をあげています(例:マタイ受難曲第2部61章a)。それを平均律で演奏してしまえば全くつまらないもになってしまうのは想像するまでもありません。

 アイリッシュ・ハープをこの音律で調律した楽器は当社にございます。興味のある方はお越しください。 関心のある方ならどなたでも歓迎しますが、事前にご連絡ください。また、その音をこのホームページ上に載せる用意をしています。近い内に音をお聞かせできると思います。
 グランド・ハープの調律はまだ技術的な問題で実際のハープでは実現しておりません。実現してからいろいろな曲を演奏し、修正しながら完成するものですので、こちらは試論です。