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対談「この人と響きあう」
   NPO法人純正律音楽研究会会報『ひびきジャーナル』11号.2004年11月発行より


ハープ音楽の歴史とその楽しみ

       高田ハープサロン代表取締役 高田明洋
       作曲家・ヴァイオリニスト 玉木宏樹


「ハープの調律についてもっと良い響きがないものか考えており、少しお伺いしたいことがあります」。
ある日、高田さんからそんなメールが届きました。ご近所の縁もあり、早速訪ねて来て下さった高田さん。こんどはこちらからハープに関する高田さんの試みについてお話を伺いに訪ねました。ハープやヴァイオリンのならぶ美しいオフィスでお話を伺いました。――玉木宏樹

 ハープの歴史
玉木: こんにちは。お邪魔します。いやあ、すごく広くて上品でうちとは大違いだわ。
高田: いやいやそんな。
(ここで二人はヴァイオリンについてウンチクを語りあうが、その内容は省略)
玉木: ハープは古代ギリシャ時代に痕跡がありますよね。
高田: ハープの起源をたどると、古代バビロニア、古代エジプト時代、そして古代インドなどにもあるとされていますね。

 ハープはグリッサンドがいのち
玉木: 前にお話しをうかがったとき、今のハープはグリッサンド(注1)が命というようなことをおっしゃっていましたね。
高田: そうです。ペダルがダブルアクションになって、異名同音(注2)によるグリッサンドの効果が生まれたのです。このグリッサンドが欲しくてハープを編成に入れることは今でも多いですね。
(ボロローンとハープを実演。)
玉木: ペダルがダブルアクションになって、ハープは生まれ変わった。その革命的な発見はいつ頃ですか。
高田: エラールというフランスのピアノ・メーカーでもあった人が、19世紀初め頃(1811年)ダブルアクションを考案しました。
玉木: それまではどうだったのですか。
高田: シングルで半音は変えられたのですが、それでは転調が限られて(♯4♭3)単純なことしかできなかった。
(ミーントーン=中全音律の範囲内ということ)

 モーツァルトはハープが嫌いだった
玉木: モーツァルトやシュポーアはそのシングルハープで作曲したのですか。
高田: そうです。モーツァルトはハープが嫌いだったようです。
玉木: 「ハープとフルートのための協奏曲」は有名ですが、でもモーツァルトはハープもフルートもチェロも、音程の悪い楽器は好きじゃなかった。
高田: ハープはあのままだったら生き残らなかったかも知れませんね。
玉木: 近代オーケストラになっても、もともと平均律だった楽器、たとえばピアノ、ギター、マンドリン、ハープ、これらの楽器は、オーケストラでは特殊楽器なのです。
高田: なるほど。

 オーケストラの中のハープ
玉木: 近代ハープがオーケストラに登場したのはいつですか。
高田: ベルリオーズの「幻想交響曲」からです。
玉木: うーん、あの舞踏会のシーンはいいですね。
高田: あれは弾きにくいんですよ、アルペジオばかりで(注3)。
玉木: アルペジオばかりでグリッサンドがない。でもあの当時、ハープを2台使っても、実際によく聴衆に聞こえたのでしょうか。
高田: 疑問はありますね。ベルリオーズは大編成のオケが好きでしたからね。
玉木: 400人くらいのオケで、サブの指揮者を三〜四人つけてベルリオーズは指揮しています。しかし交響曲の場合、あまりハープが登場していませんね。
高田: ブラームス、ブルックナー、チャイコフスキーにも登場していない。
玉木: バレエ音楽ではすハープが大変活躍しています。マーラーの作品はハープをよく使っていますね。
高田: R・シュトラウスの曲はハープがとても難しくて、彼は、ハープは小指をつかわないということを忘れているんじゃないかというほど弾きにくい。演奏不可能な部分もあります。

 ハープの弦は47本
玉木: ハープの弦は47本ですね。
高田: よくご存知ですね。
玉木: 赤穂浪士の数と同じだから覚えやすい(笑)。47本は昔からですか。
高田: いや、二十世紀近くになってからです。
玉木: では、シュポーアやパリシュ=アルバースなんて、作曲はもっと音域が狭いんですね。
高田: 正確には知りませんが、サルセド以降は47本だと思います。
玉木: 弦の材質は何なのですか。
高田: 昔は全部ガットだったのですが、現在は高音はナイロン、中音域がガット、低音は金属となっています。

 ハープの値段
玉木: お金の話で恐縮ですが、ハープの弦全部でいくらなのですか。
高田: おおよそ10万円でしょう。
玉木: え〜っ、でも、ヴァイオリンだって4本で6000円とすると・・・。私の学生時代、ヴァイオリンは大体100万円前後だったのに、ハープは500万円。とてもお金持ちのお嬢さんしか習えなかった。でも今でもハープは同じ価格ですね。
高田: だいたい200万円から600万円です。
玉木: ハープは物価の優等生ですね。値崩れしていません。
高田: ハープはすべて手作りなのです。
玉木: それではハープを作る方も売る方もあまり儲けがない。
高田: その通りです(笑)。

 アイリッシュハープのファンが増えている
玉木: (辺りを見回して)これはアイリッシュハープですね。
高田: そうです。ハープの中では小型であり弦も少ない。
玉木: ペダルがありませんね。
高田: 弦をとめる所のフックをこう上にあげると、半音上がります。
玉木: 原理はシングルアクションと同じですね。
高田: ええ、インターネットで見るとわかるのですが、アイリッシュハープのファンが全国にとても多い。
玉木: インディアンハープというか、南米のハープはどうなんでしょう。
高田: アルパですね。あれはかなり違う楽器なので、当方では扱っておりません。
玉木: アイリッシュハープが一台あるといろんな実験ができるし、ぜひほしいなあ。一台いくらですか。
高田: 30万円くらいからでしょうね。
玉木: うっ(絶句)。置くところもないしなあ・・・。

 ハープと純正律
玉木: ところでハープと純正律の関係ですが、高田さんはハープを純正律に近づけるのにどうするかという研究をされていますね。
高田: ハープやピアノという固定弦の場合、純正律は不可能ですね。
玉木: もちろん不可能だけど、それに近づけるために、ヴェルクマイスターやキルンベルガーなどの工夫された調律があった。
高田: 私は55等分律を研究していますが、(数値表を手にしながら)ヴァロッティの調律にも興味があります。
玉木: ダブルアクションハープだと、7音×3としてオクターヴで21音作れます。
高田: 原理的にはそうです。
玉木: では、微分音(注4)も可能である。
高田: 現代音楽の作曲家はいろんなことを考えています。
玉木: これはおもしろい。いろんな可能性がある。古典調律をつきつめていくと、異名異音になりますよね。
高田: そうです。純正律的にいえば、C♯とD♭は実は同じではない。
玉木: 厳密に言うと、純正律的にはC♯の方がD♭より低い。Cis(C♯)というのはCに近いという意味だし、Des(D♭)はDに近いという意味です。
高田: その異名異音にこだわりたいのです。でもハープはグリッサンドが命ですからね。微分音にすると、グリッサンドが悲惨な音になる。そこのかね合いが問題ですね。
玉木: 耳で許せる範囲ならどうでしょう。
高田: ええ、今それを研究中です。
玉木: すごいなあ、僕もぜひ研究したい。ああアイリッシュハープほしいなあ。
高田・玉木:(笑)

(注1) グリッサンド。ハープの場合、すべての弦をかき回した時、濁らない音にできるのが、ダブルアクションの特長。
(注2)ダブルアクションハープの場合「ミ」の音を「♯」にすると、「ファ」となる。そして元の「ファ」とは同音となる。次に「シ」の音を「♯」にすると「ド」と なる。ハ長調(C-dur)のトニック(主和音)のコードは、このペダリングで下から「ド」「レ」「ミ」「ソ」「ラ」として、グリッサンドで全弦をかき回すととても効果的で美しいサウンドが得られる。 
(注3) アルペジオ。分散和音。グリッサンドと似通っているようにも聞こえるが、アルペジョはひとつずつの音をちゃんと弾かなければならないのにくらべ、グリッサンドはかきまぜるだけでよいという違いがある。
(注4) 微分音。オクターヴは通常12の半音で構成されているが、もっと細かい音を使うこと。4分音や6分音がある。


玉木宏樹氏の紹介

1943年.神戸生。1965年、東京芸大ヴァイオリン科卒業。作曲は10歳より始める。学生時代から、東京交響楽団の団員となるが、集団生活になじめず逃亡。また平均律跋扈のクラシックに根本的疑問をいだきドロップアウト。山本直純氏に作曲と指揮を師事し、映画やTVドラマ等で作曲活動開始。一方演奏活動の方では弦楽四重奏団を結成し、クラシックだけではなく、全員エレキ化して、ジャズやロックシーンにも進出。作品としては、MIDI出現以前に7台のシンセサイザーとフルオーケストラとのための交響曲<雲井時鳥国(くもいのほととぎすこく)>をライブ録音し、話題となる。その他、ピアノのための練習用組曲「山手線」以下多数。TVは「大江戸捜査網」(テレビ東京)「おていちゃん」(NHK朝のTV小説)「怪奇大作戦」(円谷プロ)他多数。CM千五百曲。純正律にこだわり続けて三十年。ソニーより、日本初の純正律CD「ピュアスケールによる理想的ストレス解消」リリース。その他CD多数あり。
玉木氏のホームページはこちら

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